冬の富士山で滑落事故が発生しました。登山禁止とされる閉山期にも関わらず、中国籍の男性が登山中に転倒し、自力で動けなくなったのです。この事故をきっかけに、救助活動の負担や費用をめぐって「山岳救助は有料にすべきか」という議論が再燃。さらに、外国人登山者によるマナー違反や、そもそも登山禁止期間に登れてしまう制度の“穴”にも注目が集まっています。
この記事では、今回の事故の詳細をはじめ、閉山期の登山リスク、救助有料化の現状、外国人登山者との摩擦、そして“自己責任”の是非まで、わかりやすく深掘りして解説します。
1. 富士山で何が起きたのか?【事例解説】

1-1. 閉山中の富士山で滑落事故:中国籍男性が「歩けない」と通報
2024年1月18日午後、静岡県側の富士山で滑落事故が発生しました。被害者は中国籍の30代と見られる男性で、富士山からの下山中に足を滑らせて転倒し、自ら119番通報。
「ケガをして動けない」と助けを求めたことで、事故が発覚しました。
問題は、事故が起きたのが富士山の閉山期間中だったという点です。この時期は積雪や天候の急変により遭難リスクが高く、一般登山者の立ち入りは制限されています。
しかし、この男性はあえて危険を承知で登山し、結果として滑落してしまったと見られています。
この件は単なる個人の不注意にとどまらず、閉山期の登山における安全管理の不徹底や、登山ルールに対する認識の甘さを浮き彫りにしています。
1-2. 現地対応の現状:救助隊が到着するも搬送は後発隊を待機
男性の通報を受けて、警察・消防の山岳救助隊が富士山五合目から出動し、その日の午後8時30分ごろには現地に到着しました。
しかし、救助隊が男性の元に到着した時点で、彼は自力で歩くことができず、担架での搬送が必要な状態でした。
問題は、救助隊だけでは搬送が困難な状況だったこと。人手や安全面の問題から、すぐに下山させることができず、後発の救助隊の到着を待って搬送する予定となりました。
このように、閉山期の登山事故は一度起きると救助活動にも大きな負担がかかり、対応が難航するケースが多くなります。
1-3. 登山禁止期間にもかかわらず登る理由とは?
閉山期にもかかわらず登山をする人は少なくありません。
その理由としてまず挙げられるのが、「オフシーズンなら混雑がなく、自分のペースで登れる」という考えです。特にインバウンド需要の高まりにより、外国人登山者の中には、ピーク時の混雑を避けてあえて冬季に挑戦する人もいます。
また、SNSでの発信や動画投稿を目的に無謀な登山をする例も増えており、「他人と違う体験をしたい」「人に自慢できる登山がしたい」といった動機も背景にあるようです。
さらに、登山ルートに完全な封鎖がされておらず、事実上「登れてしまう」状況であることも、登山者の背中を押している原因のひとつといえます。
2. 閉山期に登ることのリスクと問題点

2-1. なぜ閉山期の富士山登山は危険なのか?
閉山期の富士山は、登山シーズンとはまったく異なる顔を見せます。
気温は氷点下、風速は20m以上になることもあり、天候も急変しやすいため、経験豊富な登山者でさえ慎重な判断が求められます。
さらに、登山道の標識や案内も一部撤去されており、ルートを見失いやすいことも大きなリスクとなります。滑落や転倒の可能性が非常に高く、万が一事故が起きた場合の救助活動にも支障が出るのです。
閉山期は「誰でも登っていい時期」ではなく、命をかけた行動であることを登山者一人ひとりが自覚する必要があります。
2-2. 天候・装備・救助体制の現実
冬の富士山では、完全な防寒・防風・滑落対策が必須です。軽装や一般的な登山靴ではまったく太刀打ちできず、適切な装備がない場合は命取りになります。
また、閉山期は山小屋や売店、トイレといったインフラがすべて閉鎖されています。水も食料もすべて自力で用意しなければなりません。
加えて、救助体制も通常より限定的です。常駐スタッフもおらず、救助要請があっても対応には時間がかかります。今回のように、救助に向かう隊員の安全も確保しながらの対応となるため、迅速な対応は難しいのが現状です。
2-3. 禁止期間でも登山できてしまう法制度の“穴”
富士山は閉山期間中、登山道の入口に「登山禁止」などの標識が掲げられますが、法的には立ち入り禁止ではありません。つまり、あくまで「自己責任」の範囲で登山が可能な状態となっているのです。
これにより、登山者の判断にすべてが委ねられ、管理者側としても強制的に登山を止める法的根拠が乏しいのが実情です。
こうした制度上の“抜け道”が存在することで、特に外国人登山者や無知な初心者が「登っても問題ない」と誤解してしまうケースも後を絶ちません。
3. 山岳救助は無料でいいのか?【救助有料化の議論】

3-1. 富士宮市長が主張する「閉山期救助の有料化」とは
富士山の地元自治体である静岡県富士宮市の市長・小長井義正氏は、今回の事故を受けて明確に「閉山期における山岳救助の有料化」を提言しました。
市長は「禁止されている期間に無理に登って事故を起こした場合、その救助に公費を使うのは納得しがたい」とし、ルールを無視した登山者に一定の金銭的負担を求めるべきと述べています。
この主張は一部登山者や有識者からも支持されており、今後、制度化に向けた議論が進む可能性があります。
3-2. 日本国内の他地域における有料救助の事例
日本国内では、すでに一部の自治体で山岳救助に関する有料制度が試験的に導入されています。
例えば、長野県では登山届を提出しなかった登山者に対して救助費用の一部を請求する制度を導入しており、北海道でも遭難保険の加入を推奨する取り組みが行われています。
このように、「登る自由」がある一方で「責任」も求められる時代に移行しつつあるのです。
3-3. ネット上の声:「税金で救うべき?」「自己責任?」二分する意見
この問題をめぐっては、ネット上でも意見が分かれています。
「危険な時期に登っているのだから自己責任。救助費用は本人負担にすべき」とする声がある一方で、「どんな状況であれ、命は平等に守られるべき」といった意見も根強く存在します。
また、「有料化することで救助要請をためらう登山者が出るのでは」という懸念や、「ルール違反に対する明確なペナルティは必要」という意見も出ており、今後の制度設計にはバランスの取れた議論が求められています。
4. 外国人登山者のマナー違反が注目される理由
4-1. 近年増加する外国人登山者:富士山のグローバル化
近年、富士山は日本国内だけでなく、世界中から登山者が訪れる国際的な観光地となっています。特に夏の開山期間には、頂上を目指す登山者の3人に1人が外国人観光客とも言われており、富士山はまさに“グローバル・マウンテン”の様相を呈しています。
こうした背景には、SNSや動画投稿サイトの影響も大きく、世界的に富士山への注目度が高まっていることが関係しています。
しかしその一方で、登山ルールや季節によるリスクを十分に理解していない外国人登山者も少なくないことが問題視されています。
特に今回のような閉山期間中の事故では、「外国人登山者=ルールを守らない」というイメージが強調されてしまい、地域住民や他の登山者との摩擦を生む要因にもなっています。
4-2. 言語・文化の違いが引き起こす“ルール未理解”
外国人登山者によるマナー違反の多くは、「意図的」ではなく「無知」から起きているという指摘もあります。
登山ルールや閉山期間の存在そのものを知らずに、情報サイトやSNSを参考にして登ってしまうケースが少なくありません。
特に問題となるのが、案内板や警告サインが日本語のみで書かれている場所が多いという点です。
注意喚起の表示が理解されず、「入ってはいけない場所に入る」「装備が不十分なまま登山を始める」といった事態が繰り返されています。
さらに、日本では登山に“自然への敬意”が求められる文化がある一方で、国や地域によっては“冒険・チャレンジ”としてとらえられる傾向もあります。こうした文化的な価値観の違いも、マナー違反やルール軽視の背景にあると考えられます。
4-3. 対策はあるのか?登山前の教育とガイドラインの強化が急務
このような問題に対して、日本の自治体や観光団体は徐々に対策を進めています。
例えば、多言語対応のパンフレットや登山者向けガイドラインの配布、主要な登山口での英語・中国語による注意喚起アナウンスの導入などが挙げられます。
また、事前の情報提供を強化するために、観光サイトや予約プラットフォーム上でも「閉山期間中の登山禁止」や「適切な装備」について説明が追加され始めています。
今後求められるのは、“禁止”や“自己責任”を押し付けるだけでなく、外国人登山者が自然とルールを守れるような仕組みづくりです。
たとえば、登山前に簡単なクイズ形式で知識確認を行い、正解者に登山許可証を発行するようなインセンティブ設計も有効でしょう。
5. 登山事故と「自己責任論」の境界線

5-1. 自己責任で済むのか?社会的コストと倫理の問題
「閉山期に登ったのだから事故は自己責任」という声は多く聞かれますが、それで済む問題ではありません。
救助活動には人手・時間・税金など多くの社会的コストがかかっており、当事者だけでなく周囲にも影響が及ぶのが現実です。
特に山岳救助では、危険な環境の中で救助隊員が活動する必要があり、二次災害のリスクも常に伴います。
その意味で、「好きで登ったのだから勝手にしろ」ではなく、登山そのものが社会的な責任のもとに行われているという認識が必要です。
一方で、どんな事故であっても命を救うべきという倫理的観点もあり、「救助するな」という極論には慎重さが求められます。
5-2. 登山者と救助側、両者のリスクをどう考えるべきか
登山事故では、事故を起こした本人だけでなく、救助に向かう側もまた危険にさらされるということを忘れてはなりません。
富士山のように標高の高い場所では、夜間や吹雪の中での捜索・搬送作業が命がけになります。今回のケースでも、救助隊は一度現場に到達したにもかかわらず、担架搬送ができず、後発の救助隊を待たざるを得なかったという状況に直面しました。
これはまさに、無理な登山が「本人のリスク」だけでなく「他者へのリスク」も伴っているという事実を示しています。
したがって、今後は登山者に対して「安全確保は自己責任」という意識だけでなく、「他人に迷惑をかけないための責任」も求められるでしょう。
5-3. 今後の登山文化とルール形成の課題
日本の登山文化は、長年「自由」と「自然との共生」を尊重してきました。
しかし近年では、登山人口の多様化・国際化に伴い、明確なルールと罰則の整備が求められる時代に入っています。
たとえば、閉山期の登山者には事前申請を義務化し、違反者には罰金や入山制限を設けるといった制度の導入も検討に値します。
また、登山保険の加入義務化や、山岳遭難救助費の有料化も現実的な選択肢として挙げられています。
「自由な登山」と「安全な登山」をどう両立させるか。これは単なるマナーやモラルの問題ではなく、登山を取り巻く社会全体の仕組みの問題として、今後しっかりと議論されるべき課題です。
6. まとめ:閉山期の富士山登山に必要な「覚悟」と「行動」
6-1. 登山者が考えるべき安全意識
登山は本来自由なレジャーであり、自然との触れ合いの場でもあります。
しかし、特に冬の富士山のような過酷な環境においては、「登る自由」には必ず「安全を確保する責任」が伴うことを忘れてはいけません。
自分の体力や経験を正しく見極めること、情報収集を怠らないこと、そして不測の事態に備えて救助体制やルートの確認を行うこと。
登山者一人ひとりの意識と準備が、事故を未然に防ぐ最善の策となります。
6-2. 国・自治体・民間の連携で防げる事故とは?
安全な登山環境を整備するには、登山者だけでなく国・自治体・観光事業者・メディアなど多方面の連携が不可欠です。
たとえば、閉山期の登山に関する情報を多言語で発信することや、登山前の教育プログラムの導入などが効果的です。
また、ガイド付きツアーの促進や、危険な時期における登山口の物理的な封鎖といった対策も、事故抑止に役立つでしょう。
6-3. 正しい知識が命を守る——富士山を登る前に知っておくべきこと
最後に強調したいのは、「知らなかった」では済まされないということです。
登山前に得られる情報は数多くあり、それを活用するかどうかは登山者自身の判断に委ねられています。
閉山期に富士山を登るということは、ある意味で「特別な挑戦」かもしれません。
しかし、その挑戦には、十分な知識・準備・責任が必要不可欠です。
「登ってみたい」だけでは命は守れません。
「どうすれば安全に登れるか」を第一に考え、準備し、判断することが、登山者としての最低限の姿勢と言えるでしょう。
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